鼠が紡ぐ物語。

それはちっぽけな一匹の鼠が描く、小さな小さなお話。

森の住民と、太陽の少年

セシルとイルニスの出会い。

 

その日も僕はいつも通り、森の中で空を眺めていた。

今日も空が綺麗だ。

雲一つない青空がどこまでも広がっている。

 

森でいつも一人っきりだった僕にとって、空を見ることが唯一の楽しみだった。

それに、森の動物たちが僕を歓迎してくれる。

寂しくない。

寂しくないはずだった。

 

でもやっぱり

 

一緒に話したり、笑ったりできる友達が欲しかった。

それでも友達は作れない。

 

怖かった。

 

自分が、男だってバレることが。

昔から「男のくせに」と言われ続けた僕は、

女のフリをすることで自分を安心させていたのだろう。

僕は逃げているんだ。

自分から

逃げているのかもしれない。

 

そんな時だった。

今日は、いつもと違うことが起きた。

 

 

「…あれ、お姉さん何してるの?」

人の声。

久しぶりに聞く人の声。

「…!?」

振り返ってみると、

そこには一人の少年が立っていた。

少年はきょとんとした顔で首をかしげている。

大きな深い紫色の瞳が興味深そうに僕を見つめる。

「…お姉さん、一人?」

少年は僕の横に座った。

「え…あ、はい…その…」

僕が曖昧な返事をすると、少年はにっこりと笑う。

「そーなんだ。あ、オレ様イルニスっていうの。君は?」

「あ、僕は…セシル、です…」

「そっか!えっと、しばらく、ここにいていい?」

「…はい…」

少年…イルニス君は草をいじり始めた。

彼は何故ここにいるんだろう…?

ここは全く人が入ってこない森の奥の、そのまた奥にある。

「…あの…イルニス…君。」

「ん、なぁに?」

「あなたは…ここに一人で来たんですか?」

「…んー、そうだよ!」

信じられない。

こんな子供が一人で来るなんて…

「あ、でもねー外で友達が待ってるからー大丈夫!」

僕の心を読み取ったように、彼はそう言った。

「…友達…」

この子には友達がいるんだ。

こんな明るい子、きっとたくさんいるのだろう。

「…お姉さん?」

「…!」

顔に出てしまっていたか。

イルニス君は心配そうに僕を見つめる。

「…なんだか、元気無いね?何かあったの?」

「…」

…もう、正直に話してしまおうか。

そうすれば、楽になれる気がした。

 

僕はイルニス君にすべてを話した。

僕が男だということも、勿論話した。

「そうだったんだ…」

イルニス君は目を大きく開いている。

驚いているのか。

「…はい…」

嫌われてしまっただろうか。

不安になった。

しかし、

「オレ様は男でもいいと思うよ?」

「…え?」

意外な返答に僕は驚いた。

「男だからどうだーとか、女だからなんだーとか、オレ様苦手なんだよね。性別なんて関係ないよ。生き方は人の自由だと思わない?」

彼の顔は真面目だった。

心から、そう言っている風に思えた。

「…本当、ですか?」

僕がそういうと、彼はすぐにまた笑顔に戻った。

「…ほんとーだよ。」

そして、僕に向かって手を出してきた。

「…オレ様と、友達になろ?」

 

イルニス君はこんな僕を受け入れてくれていた。

まだ出会って間もないというのに、

真実を知った上でも、変わらない笑顔を見せてくれた。

 

ふいに、冷たいものが僕の頬をつたった。

僕は、泣いていた。

「…えぇええ!!?どうしたの!?オレ様なんか悪いこと言っちゃったかな…!?」

彼はびっくりしておろおろしている。

「…違いますよ。」

僕は嬉しかった。

やっぱり、一人は寂しかったんだろう。

「…僕の、初めての友達です。」

僕は笑ってみせた。

そうすると彼も安心したようだった。

「…友達になれて、嬉しいよ。」

イルニス君はまた笑顔を見せてくれた。

 

 

そうだ、オレ様の友達を紹介するよ。

きっと、みんな歓迎してくれるよ!

 

そう手を引かれ僕は初めて森を出た。

 

 

僕の、初めての友達。

友達は、笑顔が素敵な、心優しい人でした。