鼠が紡ぐ物語。

それはちっぽけな一匹の鼠が描く、小さな小さなお話。

不思議な人。

ルルが出会った不思議な人。

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃん!」

あたしは今日あったことをお兄ちゃんに話そうと思った。

「…何だ。」

お兄ちゃんは眠そうに目こすってる。お昼寝中だったんだね。ちょっと悪いことしちゃったかな…

「あのねあのね、今日変な人に会ったんだよ!」

「…変な人?」

「あ、うーん…変っていうより…不思議、かなぁ?」

あたしもよく分からなかったけど、なんだか不思議な感じの人だった。

何でだろ。

「…おいおい…まさかお前話しかけたんじゃ」

「うん、話しかけた!」

あたしがそう言ったらお兄ちゃんはおっきい溜息をついた。

「…お前なあ、やたらと知らない人に話しかけんなっていつも言ってんだろ?」

お兄ちゃんはあたしのこと心配してくれてるんだ。

「んー…でもねお兄ちゃん。」

「…何。」

「その人、ケガしてたの…首。」

あの人首から血がいっぱいでてた。

話しかけてから気が付いたんだけど、血あんなにでてたのになんであんなに落ち着いてたんだろ?

「…怪我?」

「うん…だからあたしお兄ちゃんにもらったハンカチ、貸してあげたんだ」

「…」

あのハンカチ、お兄ちゃんが誕生日に買ってくれたやつだったけど、“ななしくん”のこと、放っておけなかったの。

「ごめんなさい。」

「…何でオレに謝るんだ?」

「お兄ちゃん、怒ってないの?」

「怒る必要ねぇだろ。」

「でも…」

「…何だ。お前らしくねぇな、ルル。お前はいいことしたから、怒る必要はないって言ってんだ。…まあ、怪我した人は放っておけない、か。」

お兄ちゃんがちょっと笑った。

「…ホント?あたし、いいことしたのかな?」

「兄ちゃんお前に嘘ついたことないだろ。」

「うんー…でもななしくん嫌がってたかも…」

「…ななし君?」

「名前、教えてくれなかったから。名前つけたんだ!」

「…お前ってやつは…」

お兄ちゃん、また溜息ついたけど、今度はあたしの頭撫でてくれた。

「…今度会った時はちゃんと名前聞けよ?」

そう言って、部屋に入ってっちゃった。お昼寝の続きするんだね。

 

 

んー。

 

ななしくん。

不思議な人だったなぁ。

今度会ったらもっとお話したいなぁ。